ご無沙汰をおゆるしくださいませ。皆様にはお元気でお過ごしのこと
と存じます。新年のご挨拶も季節のご挨拶もすっ飛ばしてしまった
lazyなChiekoからの久しぶりのCliffroseLetterであります。

バンクーバーは例年になく雪が多い年でした。 地球の滅びの前兆か、
あるはずの無い嵐にまで見舞われて多数の大木が倒れたり、ひどい
冬でした。

ともあれ、先日、まだ雪が溶けやらぬなか、あるバイオリンコンサートに
行ってきました。久しぶりのゆったりした夜でしたが、ふと、懐かしい
話を思い出してしまいました。今日はその話です。昔の私をご存知の
方には古びた話を思い出させることになりますが、まあ、お読みくだ
さいませ。

「ちいちゃん(私のこと)こんなのいらん?あんたがいらんのやったら燃
やしてしまうけど」
あれはもう30年も前の頃、いまはもう鬼籍に入った母が実家の土蔵の
前で何か白いものを振り回しています。どうやら古いバイオリンのよう
です。白く見えたのは降り積もった埃だったのですが、母がくるっと
まわして裏板を私に見せたとき、驚きました。縞模様があめ色に輝いて
とても美しかったのです。(後で調べてそれが楓だとわかったのでしたが。)

ピアノは少しかじっていましたが、バイオリンには縁が有りませんでした。
しかし、こんなに美しい楓の板の色は見たことは有りません。しかし、
真っ白に5oほどもつもった埃には当惑しました。ダニがいるかもしれま
せんものね。私は人差し指と中指でそっとつかんで、段ボール箱に放り
込み泉北の自宅まで帰りついたのでした。

数日後、埃を払い、綺麗に拭き清めた後、覗いたF孔から見えたネーム
ラベルを読んで、私は驚愕しました。
「 Antonius Stradiuarius Cremonensis Faciebad anno 1720」

大して知識の無い私でも、それがいかに高価なものか知っていました。
辻久子が家を売って買ったとか・・。しばらく夫とともに狂いましたね。
実態を知ってしまえば、それは幻想に踊ったに過ぎなかったのですが。
赤貧洗うが如しの私達にとって、これは大きな希望に見えたのです。

その後調べてみれば、 Antonius Stradiuarius は本物でも500丁は
現存しているらしいこと、そのモデルともなると数限りなくあるということ。
やがて私達は希望がしぼんだことを確認しました。失望が大きい分、
その後、完璧に忘れ去ってしまいました。

バイオリンは叔父にあたる人が。「宮さん宮さん、お馬の前でちらちら
するものなんじゃいな」などと弾いていたらしいと母は言いました。そう
いえば切れた弦に琴の糸がつなげてありました。変わり者の叔父が
切れた弦に琴の糸をむりむりつなげている様子が浮かびます。それと
くの字形に虫に食われた書付も有りました。値段も日付も書かれていた
ようなのですが、残念ながら判読できません。舶来バイオリンと楽器店の
名前は書いて有りました。推測するに、すでにバイオリンは60年の歳月
を土蔵で放置されていた物と思われました。

大騒動から30年、当時元気だった母も逝き、夫までも旅立って十年た
ちました。しかし、そのバイオリンは今、カナダのわが手元にあります。

ラベルにはイタリアのクレモナとは書かれているけれど、イタリアから
日本に来たものか、ドイツで似たものが多く作られたという話であるから
ドイツから来たものか、それにしても約100年、もし書かれている1720年
が本当だとすれば287年、流浪してカナダのバンクーバーにたどり着い
たことになります。

話代わって、ご存知のように、カナダはは移民の国です。理由は色々
でしょうが、古くはユダヤの人々や、帝政ロシアから逃れてきた人々、ぺ
レストロイカ以降の東ヨーロッパからの難民、そして最近は祖国の徴兵
制から逃れたり、政治的なトラブルに巻き込まれることを恐れたりして
移住してきている人たちが多くいます。私などはただ夫の思い出から
逃げたかったからで、不届き極まりない理由で、カナダ政府の庇護の
下に暮らせている幸せを思わずにはいられません。

上手く言えないのですが、私達はいま祖国を遠く離れたよその国で
保護され住まいしているのです。生まれ育った国を離れた私達の運命と
我がバイオリンの運命が同じものに私には思われます。そして、バイオ
リンはともかくも、どうしても多くの国の人たちとの接触のなかで、私達
のものの考え方も、自然とグローバル化していきます。コスモポリタンに
なりつつあるようです。

さて、地球は、世界はどこを向いて行くのか。そして、もっと小さく私達と
このバイオリンの末路はどう帰結するのか、Nobody knowsです。だから
人生は面白いのかも知れませんね。

なんだか支離滅裂ですが、お読みいただいて有難うございました。

さて、我がChiekoArtStudioでは3月15日から31日までArtShow
をすることになりました。移住して約十年の日々が過ぎ去りました。
私達は互いに助け合い、いまにいたっています。もしお近くでお暇が
ございましたら、是非お越しくださいませ。
http://www.cyanagitani.com/index-3htm.htm
http://www.cyanagitani.com/sub11/90artstudio.htm

柳谷Chieko拝

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