1998・6
蜂鳥
蜂鳥を御存知でしょうか? 今日、ぼんやり窓から外を見ていたら、大型の蜂のような小鳥が忙しく羽根を動かしてホクシャの蜜を吸っているのを見ました。ハミングバード、蜂鳥です。絵物語では知っていましたが、実在するとは思っていませんでした。 外にも名も知れぬ小鳥たちが、この地では特別広いとも言えないバックヤードを訪れて来ます。
又、リスが忙しく餌集めをしているのを見ていると、私の上に起こ った、この半年あまりの激変が、まるで嘘のような気分なのです。
この地に来て、まだ数週間に過ぎないのですが・・・英語もろくろ喋れない癖に、すっかりカナディアンライフに浸りきっています。
我が家の隣は右香港チャイニーズ、左隣はイーストインディアン、真裏と真正面はカナディアン、斜め後ろは日本語の話せる台湾チャイニーズと来ては、一体、人種ってなんだ、言語ってなんだ、国家ってなんなんだと思わずにはいられません。なにしろ、太古に返って、身振り手振り、毎日エアロビクスのごとき私の太めのボディ言語を駆使、なんとかやっています。
夫の急な旅立ちと私のカナダ行きなど、みなさまには本当にご迷惑をおかけいたしました。すでに朝日新聞東京本社より出版予定の原稿にも書きましたが、カナダ移住については、夫の命の短い限りを宣告されてすぐに、思い定めておりました。
しおらしく、従順な、夫に去られし喪に服す女をお望みの方々には、理解の他だと思いますが、あえてそしりを免れるつもりもなく、長く共連れであった夫との40年の歳月は、私の人生にとっての貴重な第一話だと、おわかりいただける方にのみ理解していただければと思ってます。
そして、第二話は、もう始まっています。設定はこうです。小うるさい夫は、日本にいます。妻は彼の稼いだ金を遣い放題です。毎日、窓から小鳥やリスを眺め、狭い日本の庭では出来なかったガーデニングに励んでいます。
そして、日本でなんのためだかわからぬまま、ため続けたビデオ映画を見たおしています。「ごめんね、貴方」と小声でつぶやきながら。
しかし、いずれ第二話にも、遠からず終わりはくるでしょう。
その時、息子達から、何も出来ずに逝った哀れな母親だったといわれるのではなく、したい放題して、やっと逝ったかと思われる人生の終末を迎えられるよう、命を紡いでいくつもりです。
出発間際の皆様からの、様々の手厚いお志、心より感謝いたしております。ありがとうございました。
なお、別紙の通り、安いフィーでゴルフをしたい方、お金がなくて暇のある方、お金があっても日本型突っ走りパック旅行には向かない方、絵を描きたい方、詩作にふけりたい方、マスコミ、税務署、警察などから追われている方、はたまた、失った恋の行方をじっくり探したい方、悲しみに足をすくわれそうなあぶない方々を受け入れさせていただいています。キャパシティは8名まで。ご馳走しますぞ。
非力ながら私めの破れかぶれ人生論と、このカナダの素晴らしい自然が、皆さまの新しい時への再生の触媒となれたら嬉しいのですが・・・。
まずは乱文ながら御礼まで。皆さまのお幸せを願いつつ。
柳谷 Chieko