2000年3月22日 8:11

うらの庭でつくしをみつけました。

  すでにクレマチスがかわいい花びらを開きはじめ、街路樹の桜が薄紅色の霞をかけたようになっています。玄関の植え込みの馬酔木はたわわに釣り鐘型の花をつけ、西洋シャクナゲのつぼみも大きく膨らんできました。今にバンクーバーは花の海に沈みます。

 去年の十一月から、新永住権者ためのESLに週五日のペースで通い始めましたが、未だ英会話が上達したようには思えません。日本語と油絵の私の生徒たちとも片言の英語で何とか、切り抜けている次第です。単語を羅列するだけでも、分かり合える、それがカナダです。

 パソコンを三台持ちました。すっかり、インターネットシンドロームです。パソコンがなければライフラインを切断されたような気になることでしょう。日本を捨てたつもりでも、どうしようもなく片足が日本からはなれられないようです。毎日メールやチャット、インターネットサーフィンにあけくれています。

 ESLでは、キューバ、パキスタン、コソボ、イラン、ルーマニア、ロシア、韓国、台湾、日本【これはもちろん私だけですが】、の人たちとともに学んでいます。国の名前を聞いただけで、事情がはかりしれそうですが、ルーマニアからきたビアニスとのヘレナは、私にバイエルの教則本は無いかと聞くのです。私言いました。

 「あなたはピアニストなのにどうして、国をでるとき楽譜をもってこなかったの」

 そしたら彼女はこういうのです。私たちは八年前、たった二つっきりのスーツケースだけで、国をすてたのだと・・・。私は、彼女にショパンのノクターンの楽譜を貸してあげたのでした。ヘレナの夫も同級生でしたが、彼はルーマニアでコンストラクションの会社のオーナーだったらしいのです。私はチャウセスク夫婦の死に顔と、ダイヤが埋め込まれた夫人の靴、パレスのような彼らの建設途中のビッグハウスの写真をオーバーラップさせてしまいました。

 もう一人、イリーナは、ロシアからの移民です。彼女はサハリンにすんでいたそうです。樺太ですよね。驚いたのは次の彼女の言葉です。私を日本人だと知って彼女は近づいてきました。何故かふりかけが好きだというのです。

「あなたは星野道夫を知っているか。有名な写真家でバイオロジストだと思うが」「えっ」と私思いました。「シロクマにくわれちゃった?」まさかと思いました。

どういうことかと、私はイリーナの顔を見つめました。 「夫はインスティテュートのバイオロジストだけれど、ずーっと星野と行動を共にしていたのよ」と。「星野を食ったシロクマを射殺したのは、夫イゴール・レベアンコです」と。私は星野とイゴールが、オーロラの下で、炊きたてのご飯にふりかけをかけて食したに違いないことを確信しました。

 ・・・・・・。絶句です。歴史やニュースが皮膚で感じられるところに私はいるのです。私が即座に彼らをディナーに招待したのは、もちろんのことです。下手な英語で何とか彼らの話を直に聞き取りたいという、物書きの端くれである私の欲望はどうしようも無いのです。

 さて、この続きはまたの時に。千恵子さんはなんとか、食いつないで、死なずに生きています。生きている限り、死んだようには生きないつもりです。夫の急逝は、私に様々なことを教えました。健康に恵まれて、お幸せな方々には、類推しようもないことを・・・・。


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