Cliffrose Letter 2000 Nov. 26. 藤村の根無し草四つの巻の序。
遂に、新しき詩歌の時は来たりぬ。
そはうつくしき曙のごとくなりき。あるものは古の予言者の如く叫び、あるものは西の詩人のごとくによばはり、いづれも明光と新声と空想とに酔えるがごとくなりき。
うらわかき想像は長き眠りより覚めて、民俗の言葉を語れり。
伝説は再びよみがえりぬ。自然はふたたび新しき色を帯びぬ。
明光はまのあたりなる生と死とをてらせり、過去の壮大と衰退とを照らせり。
新しきうたびとの群の多くは、ただ穆実なる青年なりき。その芸術は幼稚なりき、不完全なりき、されどまた偽りも飾りもなかりき。青春のいのちはかれらの口唇にあふれ、感激の涙はかれらの頬をつたいしなり。こころみに思へ、清新横溢なる思潮は幾多の青年をして殆ど寝食を忘れしめたるを。また、思へ、近代の悲哀と煩悶とは幾多の青年をして狂せしるめたるを。
われも拙き身を忘れて、この新しきうたびとのの声に和しぬ。
詩歌は静かなるところにて思ひお越したる感動なりとかや。げにわが歌ぞおぞき苦闘の告白なる。
なげきと、わずらひとは、わが歌に残りぬ。思へば言ふぞよき。ためらはずして言ふぞよき。いささかなる活動に励まされてわれも身と心とを救ひしなり。
誰か旧き生涯に安ぜんとするものぞ。おのがじし新しきを開かんと思へるぞ、若き人々のつとめなる。
生命は力なり。力は声なり。声は言葉なり。新しき言葉はすなはち新しき生涯なり。
われもこの新しきに入らんことを願ひて、多くの寂しく暗き月日を過ごしぬ。
芸術はわが願いなり。されどわれは芸術を軽く見たりき。むしろわれは芸術を第二の人生と見たりき。また第二の自然とも見たりき。
ああ、詩歌はわれにとりて自ら責むるの鞭にてありき。わが若き胸は溢れて、花も香もなき根無し草四つの巻とはなれり。われは今、青春の記念として、かかるおもひでの歌ぐさかきあつめ、友とする人々のまえに捧げんむとはするなり。
島崎藤村
******************************************
高校時代、わたしは国語の教科書を丸暗記するほど読んだのでした。中でもこの藤村の若菜集その他の合本詩集の巻頭言は、好んで暗記したものの一つでした。このうつくしい文体とリズム感、藤村の若々しい意気の溢れる内容は、いつまでも私の脳裏にやきついて離れませんでした。
あれから、もう、何十年でしょうか・・・。私は、もう、おぼえていたことさえ、わすれかけていたのでした。
夫に旅立たれて三年。このたびの帰国のあいだ、私は、夫との数多くの思い出のものを整理しました。すでに忘れかけていた藤村の巻頭言に、捨て去ろうとした数々の本の中で出会いました。ふたたび・・・・。
この巻頭言の中に、私の生き様のルーツがあるのを感じました。そして、しらずしらず記憶の奥底に沈み込ませていた思い出を呼び覚ましていました。なにか、急に嬉しくなってしまいました。
それでみなさまに、この藤村の瑞々しい感性をお届けする事といたしました。
酔歌祭を会費制としたにも関わらず大勢の方々にお越し頂け、楽しいひとときを過ごすことが出来ました。此は、ひとえにわたしの多くの友人達の助力に寄るものです。本当にありがとうございました。
バンクーバーはクリスマスイルミネーションの輝く素晴らしい冬の始まりです。ぜひ雪が降ってほしいと言うのが、ホワイトクリスマスを期待するバンクーバーっ子ののぞみですが・・・。はてさて、スノーメンはどこへいったやら・・・・・・・・・。
Cliffrose 亭 亭主 柳谷千恵子
********************************************************
Love from Chieko Yanagitani in Greater Vancouver
E-Mail cyanagitani@shaw.ca
URL http://www.cyanagitani.com/
ICQ #4524885 #67136024 ********************************************************